賃貸市場の競争が激化し経営状況が厳しくなる一方、オーナーさまのほとんどが危機管理意識を持っていません。待っているだけで入居者が決まり、家賃が入って利益が出ていた賃貸経営の時代はすでに終わっているにもかかわらず、その実情を認識せず意識の脱却ができていないというのが根本的な問題です。
これを逆手に取れば、未だ多くの人が意識の低い状況であり、他の業界と比べるとまだ競争が厳しくなっていない今、いち早く現状を認識し行動を起こすオーナーさまは競争市場で優位に戦っていけるのです。
問題はオーナーさまが管理を委託する管理会社、ひいては賃貸管理業界自体の側にもあります。時代や市況が大きく変化しているにもかかわらず、ほとんどの管理会社の管理システムは住宅不足の時代の考え方をそのまま残しています。これからの住宅あまりの時代に合ったシステムを構築できていないことが最大の問題です。
現在の賃貸市場におけるほとんどの管理会社では自社で賃貸仲介店舗を持っており、そこで客付けをし入居者募集をしていますが、結論から言えば入居者募集をするに当たり、管理会社は自社で仲介店舗を持ってはいけないのです。
管理会社の役割は、オーナーさまの利益を最大化するための管理業務です。そのためには管理している物件に入居者を入れて空室を少なくすることが必須であり、自社で直接入居者を仲介することが本来の目的ではありません。管理会社が自社で客付けし仲介するための店舗を持ってしまうと、オーナーさまの利益を最大化するための管理業務と、仲介手数料を稼ぐという仲介の仕事が混在することになります。すると本来の目的であった管理業務の目的が達成しづらくなってしまうのです。
つまり自社で仲介店舗を持っていることが、オーナーさまの利益を最大化するために必要な管理業務を大きく制限してしまうことになるのです。こうしたシステムは、住宅不足が続き借主が空室よりも多い状況でこそ成り立つ構造であり、現在の状況に適したシステムではなくなっています。
自社の仲介店舗を持つ管理会社は、その立ち位置が問題となります。「仲介管理一体型」の管理会社の基本的な問題点は、オーナーさまと入居者のどちらの立場に立って仕事をするのかという点で、立ち位置が曖昧になっているということです。管理会社はオーナーさまから管理料をもらった上で業務を遂行しているので、本来オーナーさまの立場に立って働くのがあるべき姿です。
しかしこうした「仲介管理一体型」の管理会社は、自社の仲介店舗を持っていることにより、極めて曖昧な立ち位置で仕事をすることが多くなっています。例えば空室を埋めようというとき、管理会社が自社の店舗で客付けして仲介し、オーナーさまと入居者の間に立つ立場として契約を結びます。このとき「仲介管理一体型」の管理会社は、入居者とオーナーさまの両方の利益について代弁する立場となっています。
この場合、管理会社はオーナーさまからの管理料だけではなく、入居者からも仲介手数料を受け取っています。ですから入居者も「仲介管理一体型」の管理会社にとっては「お客さま」になり、入居者のためにオーナーさまに対して家賃の値下げ交渉をする場合も出てきます。この場合、オーナーさまの利益を減らすことで入居者の利益を確保することとなり、「仲介管理一体型」の管理会社は、オーナーさまの利益とは相反する立場、つまり利益相反の関係になってしまいます。
このことは日本の賃貸業の歴史的な背景が関係しています。元来日本の賃貸業は仲介から始まり、40年ほど前になってから管理業が生まれました。仲介から始まった賃貸業がその延長として管理業にも携わるようになったことから、入居者から仲介手数料を取り、オーナーさまから管理料を得るという業務形態が広く浸透しているのです。こうしてこの業態が業界の常識となっていきましたが、大空室時代を迎えた今、管理会社の立場の曖昧さやオーナーさまとの利益相反の関係が表面化するようになりました。
このような性質から「仲介管理一体型」の管理会社は、必ずしもオーナーさまの側に立ちその利益を最大化するために業務を行っているわけではなく、利益相反の関係の上で管理業を請け負っています。それに加え前述のように、多くの「仲介管理一体型」の管理会社は住宅不足時代だからこそ問題がなかった受け身の管理姿勢であることも大きな問題点です。このままでは管理会社とそれに委託する側のオーナーさまのどちらも、これからの競争が激化した賃貸市場で生き残っていくことは困難であると言えます。
1.入居促進費と仲介手数料の問題
図の場合の報酬配分は通常「分かれ」ということになり、お客さまを紹介する仲介(客付け)会社の売上は、入居者から得る家賃1ヶ月分の仲介手数料のみとなってしまいます。住宅不足の時代であれば、紹介できる物件があるだけでもよいという状況もありましたが、現在の大空室時代では紹介可能な物件は手に余るほどあります。こうした状況で賃貸仲介営業マンが、家賃1ヶ月分の仲介手数料しかもらえない他社の物件を優先して紹介するということはまずあり得ません。
2.鍵の問題
賃貸仲介は現場のその一時で勝負しなればなりません。お客さまが来店してやりとりした後、その場で物件を案内することになります。この時、空室の鍵がどこにあるのかが問題になってきます。現場としてはできることならすぐに鍵を取り、迅速に空室を案内したいものです。
しかし「仲介管理一体型」の管理会社は、自社物件は自社で紹介することを前提にしており、基本的には自社で鍵を保管しています。すると仲介(客付け)会社は「仲介管理一体型」の管理会社の店舗に鍵を取りに行くという手間が掛かり、営業マンはこれを非常に嫌います。現場の細かい事情ではありますが、鍵の所在が部屋の案内のしやすさを左右するということも忘れてはいけない点です。ちなみに当社の管理物件の鍵についてはすべて現地で対応できるようにしていますので、各賃貸仲介の営業マンが物件にお客さまを案内しやすくなっています。
このように「仲介管理一体型」の管理会社では、自社以外の仲介会社からの客付け(仲介)は期待できないのが現状です。空室が長期化すれば、他社に頼って募集するということもありますが、これは自社の利益を最優先したやり方であって、オーナーさまに対しては利益を減らす行為となってしまいます。
「仲介管理一体型」の管理会社の最大の特徴は、管理会社が賃貸仲介のために賃貸仲介店舗を持ち、自社で仲介(客付け)をすることです。これによって、管理会社がオーナーさま側と利益相反の関係になってしまうことはこれまで述べたとおりですが問題はそれだけではありません。
その性質上、入居者募集の間口が基本的にはその会社だけに狭められてしまうことも大きな問題です。借主が貸し手より多かった時代には、1社のみが客付けをしても満室にすることができました。しかし住宅が余っている現在では、1社が単独で満室にするのは困難になってきています。
一方で、一社で独占することには「仲介管理一体型」の管理会社の利益面で理由があり、その1つは入居促進費と仲介手数料収入の確保です。また集客のためにも意味があります。「仲介管理一体型」の管理会社は独占した部屋の情報を広告塔として利用し、その部屋を案内してほしい入居希望者はその仲介店舗に行くしかないという状況を作り出すことで集客につなげています。管理会社の役割は、オーナーさまの空室を埋めることが最優先にされるべきですが、管理会社の利益のためにオーナーさまの利益が削られる結果となっているのです。
このように募集を1社で独占すれば、それだけ長い期間空室が続いてしまう可能性も高くなりますが、管理会社は空室期間を保証してくれるわけではありません。やはり「仲介管理一体型」の管理会社の業務形態では、オーナーさまの収益を減らしてしまうステムになっています。あまりに空室の期間が続けば、オーナーさまの手前、他社に情報を渡し募集することもありますが、入居促進費を一部抜くこともよくあり、あきらかに仲介店の利益を優先しているのです。
このような形態の賃貸管理会社が、現在でも業界の大勢を占めているのはなぜなのでしょうか。やはりその原因は、長く続いた住宅不足の時代にあります。日本では戦後からバブル崩壊までの期間、住宅不足が続き、店頭に多くの入居者が列をつくっているような状況でした。
圧倒的に需要が供給を上回っている、いわばオイルショックと同じような状態が続いたため、売るために試行錯誤することのない特殊な市場だったのです。
このために、仲介(客付け)と管理という相反する立場が1カ所の会社に存在するという状態でも、問題が表面化しませんでした。しかしながら今後は、何もしない受け身の賃貸経営では入居者は入ってくれません。今後は賃貸管理の立場や役割が明確化され、オーナーさまの利益になる仕組みや方法が必要とされてきているのです。
「仲介管理一体型」の管理会社で募集の間口がせまくなってしまうのはなぜでしょうか。それはこのシステム自体が矛盾しているということにあります。オーナーさまの利益のためである管理という立場と、仲介手数料を利益とする賃貸仲介という相反する立場を、「仲介管理一体型」の管理会社は同時に持っています。
管理とはオーナーさまの代理という立場から、満室にして家賃収入を最大限に保ち、オーナーさまの利益を最大化することが目的のはずです。そのためには、多くの仲介会社に依頼して広く募集することで少しでも多くの入居希望者を募り、部屋を案内することが必要です。管理会社の役割をメーカーに例えると、仲介会社の役割は小売店であり、できるだけ多くの小売店に販促活動を頼み自社商品を売ってもらわなければいけません。
当然オーナーさまにとっては、どの仲介会社が紹介してくれた入居希望者でも、入居審査に通りきちんと家賃を払ってくれる人であれば特に問題はありません。入居者がいないことが一番の問題です。しかし、賃貸仲介営業マンの立場を考えてみると違ってきます。
仲介会社の目的は売上となる仲介手数料や入居促進費であり、自社店舗を持っている以上、賃料等の固定費もかかることから、ほとんどの場合店舗や個人につきノルマが課されています。他社から仲介(客付け)をされた場合、仲介手数料は他社に入ってしまうため、できるだけ物件を他社には紹介せず、自社で独占しようということになります。さらに賃貸仲介営業マンは当然、「両手」を取ろうとします。店舗を持った業務形態である限り、こうしたことはどうしても避けられないのです。
この状態は自社で販売店を持つメーカーと似ています。当然、全体の売上を最大化したいはずですが、自社の持つ販売店の売上を他の販売店よりも高くしたいのであれば、他の販売店での販売促進は制限されます。つまりメーカーとしては売上を最大化したいが、販売店としての売上も高く保ちたいという2つの異なった立場を一度に抱えてしまうために矛盾が生じています。これと同じ矛盾が「仲介管理一体型」の管理会社の一番の問題点です。
管理会社の目的は、オーナーさまの利益を最大化することですが、自社店舗があるために仲介手数料や入居促進費を最大化するという目的が加味され、本来の目的のための行動が制限されてしまうのです。
これからの時代、賃貸経営のプロとしてオーナーさまの代理という立場でその利益を最大化するには、賃貸市場での厳しい競争に勝ち残っていかなければなりません。今後必要とされる管理会社のあり方は、オーナーさまの利益を最大化するため、豊富な専門知識やノウハウを駆使して競争に勝ち続けることです。
しかし「仲介管理一体型」の管理会社の担当者は、残念ながら賃貸マンション経営の専門知識・ノウハウが不足してるのが実情です。また会社の仕組みそのものがそもそも賃貸の仲介業務から成り立っていることも大きな原因です。管理業務を含んだ賃貸仲介の営業と賃貸マンション経営というのは一見似ているようでもまったく別のものであり、賃貸仲介の営業マンは、賃貸マンション経営の経験、専門知識ともにほとんど触れていないのです。まして実際に賃貸マンションの経営をしている人はほぼいないと思われます。
ですから当然、オーナーさまの気持ちを理解することは難しく、これが問題点であると言えます。空室が続き不安を募らせるオーナーさまの気持ちに寄り添うことはなかなか困難でしょう。さらにオーナーさまの収支の状況を把握して業務を行うということもできません。また、会社の規模が大きければ大きいほど、担当者は「サラリーマン化」し、業務は分担化していきます。よく言えばスペシャリスト化していくわけですが、それはあくまでも管理業務の一部分のスキルでしかなく、幅広い経営のスキルは身につけられません。こうした背景も受け身の業務形態の一因であると言えます。